政治と誠意

宮崎の民間種牛17日にも殺処分、薦田さん「県民に迷惑をかけたくない」(IBTimes)

宮崎の口蹄疫問題をめぐり、民間で種牛6頭を所有している薦田長久さんに、東国原知事が殺処分の受け入れを要請した。

 薦田さんは16日午前、県庁を訪ね、東国原知事に受け入れる意向を直接伝えた。薦田さんは東国原知事と面会後、記者団に「県民に迷惑をかけたくない」と語った。
 
 東国原英夫知事は同日の記者会見で「県全体のために決断していただき、心から感謝します」と述べた。

宮崎県の民間種牛の殺処分が所有される方の同意を最終的には一応得られた形で、明日7月17日にも殺処分が行われるようです。この種牛6頭の殺処分は先月施行された「口蹄疫対策特別措置法」によって行われるものです。優秀な種牛を作るには月日もお金も、そして労力もかかることを一連の口蹄疫報道で学びましたが、また一方で口蹄疫対策は現状では患畜、擬似患畜も含めての殺処分の必要が唱えられています。また指定区域内の患畜、擬似患畜以外の家畜も「口蹄疫対策特別措置法」によって殺処分の対象になりました。

(参照)DIGポッドキャスト:5月12日(水)「口蹄疫を理解しよう」(TBSラジオ)

テレビ報道を見る限り、東国原知事や種牛の所有者の薦田さんの怒りを見れば普段であれば、野党から批判が上がってもおかしくないような状況に思われるのですが(前農林水産大臣の赤松さんの初動に関しては野党から批判が噴出しました)、今回は与野党含めてこの国による種牛の殺処分勧告に対する批判は聞かれません。今回の騒動は東国原知事と薦田さんの感情論が先に立ってしまったこと、と山田農林水産大臣の対応ではなく姿勢に問題があったのではないかと思います。

本来であれば、今回の問題は問題に成りようはずの無いことです。現状の防疫体制や口蹄疫に対する考え方では、解決方法はワクチンではなく殺処分でしかありえない。前回、特例として扱われた宮崎家畜改良事業団のスーパー種牛の場合はあくまで例外的な、超法規的措置であったわけです。これ以上、特例を認めることには上記のラジオ番組にも出演されていた白石教授もニュース番組内で反対の立場を示されていました。当然です。感染症を封じ込めるための殺処分に度々特例を認めていたらどうなるか。

であるにもかかわらず、東国原知事や薦田さんは特例を求めたわけです。優秀な種牛を作るには優秀な種牛を作るには月日もお金も、そして労力もかかることは知識としては理解していますし、気持ちは分かります。ただ”気持ち”は分かるなのです。要はこれは経済的な問題のようでいて、実際には感情論だった。それこそがこれを問題にした齟齬なのです。そしてその齟齬に拍車をかけたのが山田大臣の対応でした。殺処分以外にありえないから、袖にしたような態度を取られたのでしょうが、相手は感情論でやってきているのです。

結局、報じられているような”問題”になってしまいました。戦略という風には見たくはないですが、どうしても東国原知事の行動や発言に関しては納得がいかない部分があります。

「結局」東国原英夫オフィシャルブログ「そのまんま日記」)

結果、薦田氏の種雄牛が残っていれば、いつまでも移動制限並びに非常事態宣言の解除は出来ず、県民の皆様の生活や地域経済等に深刻な被害・影響が及ぶことになる。加えて、これらを拒否すれば、今後の国の復興対策支援や交付税等にも影響が懸念された。いわば移動制限解除や復興支援を人質とした農水相のやり方は姑息で卑劣だと言わざるを得ないが、「法」や「権力」を振りかざされるとやはり我々は屈せざるを得なかった。

本当に悔しい。この国はこのままでは絶対に駄目になる。
(上記記事より一部引用)

山田大臣に致命的に誠意が足りなかったのは明らかだが(そして加えて言えば山田大臣は元牧場経営者でもある。現場にいたかはともかく)、「移動制限解除や復興支援を人質とした農水相のやり方は姑息で卑劣だと言わざるを得ない」とは防疫や法律、その他もろもろを横に置いたまた明らかな暴論です。また薦田さんが殺処分を了解した直後の会見では東国原知事は「謝罪なり感謝なりを示すべき」との言を山田大臣に向けて居られましたが、薦田さんが直接の謝罪に向かおうとする山田大臣についてマスコミに問われた際に不快感を示した後は、「どの面下げて宮崎に来るというのか。KYだ」との発言をまた向けていた。
 


山田大臣にしろ、東国原知事にしろどうにも気分の悪い”問題”でした。